Artist

DDAA / DDAA LAB
建築、都市計画、ランドスケープ、インテリア、プロダクト、コンセプトメイキングなどの様々な分野で活動している建築・デザイン事務所。
DDAA LABは建築的な思考を軸に、社会性のある実験的なデザインとリサーチを行う。

元木大輔
DDAA/DDAA LAB代表。CEKAI所属。Mistletoe Community。シェアスペースhappa運営。東京藝術大学非常勤講師。
1981年埼玉県生まれ。2004年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、スキーマ建築計画勤務。2010年DDAA設立。2019年、コレクティブ・インパクト・コミュニテイーを標榜し、スタートアップの支援を行うMistletoeと共に、実験的なデザインとリサーチのための組織DDAA LABを設立。2021年第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展参加。

ARTWORK

OUCHI

日本の伝統的な在来工法で作られた建物の現状をできるだけそのまま活かしつつ大胆に印象を変えることで、築86年の日本家屋に新たな「機能」と「価値」を生み出しました。
POPUP STOREや展覧会などイベントを行うスペースとして活用する他、2階にアーティスト・イン・レジデンスの機能を備えることで、アーティストによる滞在型作品制作もできる場所として使用いたします。

自由に増改築が繰り返されてきた跡が残る日本家屋には、時代に合せてフレキシブルに変化してきた姿を垣間見ることができます。OUCHIではそのスタイルを受け継ぎ、「今後も変化し続ける」空間を目指します。

COMMENT

元木大輔
波佐見焼陶磁器ブランドのマルヒロのオフィス「おうち」は、現在DDAAで計画中の公園と直営店などの複合プロジェクト「ヒロッパ」のすぐ裏手にある築86年の日本家屋のリノベーションのプロジェクトだ。

波佐見焼とは長崎県波佐見町の地場産業で、直営店に公園の機能を付加することで、顧客だけでなく地元の人たちにも利用してもらうための広場として「ヒロッパ」を計画している。その公園した隣接した古民家にオフィス機能だけでなくショールーム、公園で食べるお弁当をつくる厨房、アーティストなどとのコラボレーションのためのレジデンススペースを作る。
このプロジェクトがちょうどスタートしたころ、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大したが、屋外用途の公園のプロジェクトはアフターコロナも有効であろうため、クライアントはプロジェクトを継続することにした。ただし、将来の予測がむずかしいいま、組織のあり方としても会社経営としても、フレキシブルであることはとても重要だ。そのため、僕たちは当初の予算の半分でできることを提案した。
目指したのは現状のものにできるだけ手を加えないで、大胆に印象を変えること。また、機能やコンセプトを固定させない空間を作ることだ。

そもそも、木造の日本家屋はフレキシブルに増改築を繰り返すことができるつくりだ。竣工時にピークを迎えるのではなく、少しずつ状況に合わせて姿を変えられるところが、日本家屋の特徴だともいえる。今回対象となった日本家屋もその例にもれず、キッチンや倉庫、玄関などが増築されていた。
DDAAの提案はできるだけ既存の状態に手を加えず、畳の敷かれていた部屋の床を抜く、それだけである。床を取り払い、現れた立派な束石を残しつつ、土間コンクリートを打った。土間と合わせてコンクリートの立ち上がりを設け、もとの床の高さのテーブルの脚にした。畳の上で椅子を使うと畳を傷めてしまうが、畳を取り外すことでその問題を解消し、同時に床が下がったので天井高も確保される。
畳に座ったときに庭を眺められるよう下部にガラスがはめ込まれた雪見障子は、ガラスと障子紙をすべて取り外した。床が下がったことで椅子に座ったときの視線の高さに庭園が広がる。少し高くなった床の間も、椅子に座ることの多い現代の生活の目線にフィットする。既存の障子枠を使って、エントランスのサインも兼ねた転がる丸い鏡の建具を設えた。2階は、アーティストのレジデンススペースとして、畳を板に敷き直した。長押より下の壁面に床と同じラワン合板を貼り、それより上には手を加えていない。

関係性を少しだけ変えるだけで、元々の意味を変化させることができる。空き家など、既存ストックの活用するための手法として、有効な手立てだと考えている。竣工後、早速オフィスだけでなく、公園に隣接するお茶屋さんにする、ポップアップショップやレンタルスペースとして使う計画が浮上している。

HIROPPA

毎日通える親しみやすさとアートを身近に体感できる、マルヒロストアとコーヒースタンドを併設した自然いっぱいの公園です。
「波佐見焼・アート・自然・食・音楽」をキーに、さまざまなカルチャーを提供できる場でありたいと考えています。

COMMENT

元木大輔
完成しない、ということに興味がある。建築に限らず、プロダクトからランドスケープまで、竣工や完成をピークとするのではなく、その後の更新や参加可能性が残されていることで、変化や様々なノイズを受け入れることのできるおおらかな質に魅力を感じている。プロジェクトの完成度は重視しつつも、完成してしまうことでプロジェクトが元々持っていた可能性がひとつの価値観に収束してしまうことなく、オープンに広がっていく可能性を残してデザインできないだろうか。

昨年、モダニズムのマスターピースの一つ、アルヴァ・アアルトがデザインしたStool 60をもう一度「未完成品」ととらえなおし、小さなテーブルやキャスターを付けたり、高さの調節などの機能や役割を追加する100パターンのアイデアを発表した。Stool 60に代表されるモダニズムのデザインは、最大公約数的にできているけれど、決して万能ではない。この「Hackability of the Stool」 (スツールの改変可能性)というプロジェクトは、その最大公約数なデザインの過程で削ぎ落とされてしまった、多様で、ニッチで、ささやかな機能を付加していくものだ。モダニズムや大量生産品の良いところはキープしたまま、地域差や個人差といった変数を加え、多様性を担保することはできないか。これは、モダニズムが席巻した後の均質化した世界を生きる僕たちにとっては、とりわけ切実な問題に感じている。100パターン以上の多様な改変を許容してくれるStool 60のように、人々に多様なアクティビティを促し、オープンエンドな参加可能性が担保されている魅力的な空間やプロダクトは設計可能なのか、という関心に基づいて設計したのが、このHIROPPAとおうちというプロジェクトだ。

地場産業を公園から盛り上げる

江戸時代から陶磁器づくりが盛んで、現在も住民の約3割が焼き物づくりに関わるという長崎県波佐見町。この地域を代表する企業であり、陶磁器の企画・販売を手がける「マルヒロ」より、複合施設的な店舗の設計依頼があった。興味を惹かれたのは、彼らのプランに「公園」が含まれていたことだった。遠方から訪れる焼き物ファンだけでなく、地場産業を支える地域の人々も自然に集まり、波佐見焼やさまざまな文化を身近に感じられる場をつくりたい。それを実現できるのは、単一の目的しか持たない店舗や博物館ではなく、多様な目的を受け入れられる寛容さをもった「公園」なのではないか。マルヒロのそんな考えに強く共感した。
厳密にいえば、私企業がつくる空間は「公園」ではない。それでも老若男女誰でも自由に入れて思い思いに過ごせる開かれたあり方や、地域のためにつくられているという公共性はまさに「公園」の持つ性質といえる。そんな場所で生まれる何かが、めぐりめぐって地域や地場産業を盛り上げ、後継者不足や売上の減少といった課題の風向きを変えるかもしれない。

「地面」を多様に解釈する

マルヒロからのオーダーを空間に落とし込み、多様な目的を受け入れられる寛容さをもつ空間の質を作るべく、あらゆるレイヤーにおいて「オープンエンド」な設計を試みている。HIROPPAは店舗やカフェ、キオスクとトイレからなる「建築」と敷地の大半を占める「広場」、そして両者をつなぐ中間項の「パーゴラ」から構成されている。どのエリアについても、「利用者の過ごし方や場の使われ方」、「場の雰囲気や空間の質」、「構法や構造」にかんして、特定の機能やコンセプトに集約されない開かれた状態をキープしたい。

広場については、たとえば、すべり台をつくるのであれば、「滑ると楽しい」という本質的で根源的なコンセプトからスタートする。そこから、「滑る」を何か別の状況で再現できないかと考える。遊びとは遊具の形によって決められた行為ではなく、「目的もないのに楽しい」という事実を発見した時に生まれるものだったはずだ。最終的に僕たちがデザインしたのは、遊具というよりも「地面」そのものだった。人が腰かけたり、滑ったりするための「きっかけ」を地面に与える。たとえば、土を盛って斜面をつくり、その上部に日陰をつくるためのパーゴラを設置する。傾斜地の下には、廃品の陶器を細かく砕いた砂を敷き詰め、砂遊びができるビーチになっている。浅く水を貯めれば波打ち際のようなじゃぶじゃぶ池もつくれるし、夏には水をたくさん貯めて水遊びもできる。「地面の操作」というアイデアに至った経緯としては、遊具の制作費が思いのほか高く、土の移動だけで済むやり方がコスト上とても有利だったという現実的な事情もあるのだが、「遊具のある公園」よりももう少しプリミティブな広場を考えてみたいと思ったことが大きい。地形に様々な特徴を与えることで、広場そのものに対して、様々に解釈可能な「原っぱ」的な質を持たせたいと思ったのだ。

内と外をつなぐパーゴラ

店舗とカフェについては、まず広場と建築をつなぐ中間領域としてのパーゴラを中心に考えていった。パーゴラはHIROPPA全体のエントランス、カフェと広場をつなぐような形で配置されているほか、広場の高台にも設けられている。
広場は日陰が少なく、日差しの強い日は大人にとってはつらい。しかし、そこで単なる日よけや建物をつくってしまうと、大人がそこから出なくなることは容易に想像できる。そこで日よけとして、子どもと大人のスペースをほどよく混在させられる「建物未満」のパーゴラを高台に設置することにした。パーゴラの中には桜などの季節を感じる樹種を植えており、木々が成長することで木漏れ日を楽しめる日陰のスペースになる。パーゴラの2階部分には子どもたちが遊べるハンモックを設けており、壁にシーツなどをかぶせればイベント時にプロジェクターで映像を投影することもできる。
エントランス付近については特に、中と外の境界や仕上げの範囲を丁寧にずらすことで、パーゴラと建築の境界が曖昧になり、連続性が生まれるようにデザインした。カフェのカウンターはそのまま広場に延び、テラス席のテーブルになっている。テラスの地面には陶石(磁器になる前の石)が敷き詰められ、それがそのままカフェカウンター周辺の床にも敷き込まれている。さらに、外と同じように、その床に直接植物を植えた。カフェスペースのカウンター周辺は、テントを間柱に直付けしている。テントのジッパーを開け放つと、サッシがないことで架構だけのパーゴラのような佇まいになる。また、屋根もパーゴラに折半屋根を乗せただけのつくりにすることで、明確な内外の境界をつくらないように納めた。

構法もオープンエンドに

パーゴラと建築は、つくり方についても在来工法に拠らず、DIYの延長のような技術的にも開かれた構法を構造家とともに考えた。構造材はプレカットをせず直線カットのみで加工し、材どうしを沿わせて止めるだけのつくりにしている。在来工法のように仕口の加工がなく、シンプルな加工のみで特殊な技術も必要としない。また、パーゴラには、パッションフルーツやキウイといったつる性植物を植えている。生長とともにパーゴラ屋根のルーバー状の垂木につるが絡まり、やがて実もなる予定だ。将来梁や柱が腐食した場合も、ボルトやビスを外すだけで架構を1本単位で交換することができる。
内装についても同様、空調用のスパイラルダクトを使った台やオフィスの床材に用いられるOAフロアを転用した什器は既製品のモジュールでできているため、必要に応じて簡単に縮小や拡張ができる。二期、三期と拡張を続けていく予定のHIROPPA、そのカフェが最終的に「オープンエンド」と名付けられたのは、可変性をもたせたいという思想の象徴といえるかもしれない。また、「公園」をつくるというアプローチは波佐見町に限らず、全国のどこにでも応用できる。このアイデア自体がいわばオープンエンドに広がっていき、日本各地によい公園が増えていったら面白い。

High stool

コーヒースタンド・OPEN-ENDで使用しているHIROPPA特注のスツールです。カウンターの高さに合わせ、またスタッキングできるようデザインしていただきました。テラス席でも使用できるようメッキを塗装し、サビにくい仕様になっています。

Artificial Grass Cushion

人工芝のクッションです。人工芝の水抜き孔を利用し、クライミングロープで縫い合わせました。全身を預けられるサイズで、HIROPPAでのお昼寝におすすめです。持ち運びできるので、HIROPPAの好きな場所に置いてクッションでくつろいでみてください。